映画「ちいさな独裁者」を観たいと思ったのは、最近とてもハマっている作家・塩野七生さんに影響を受けたからだ。今読んでいるのは『男たちへ』というエッセイ集。

塩野七生さんは「男の装い」に手厳しい。自ら「なんとうるさくパトロジックなのだろう」とおっしゃられる程で、そのこだわりの数々が本の各章で緻密に書かれている。それに付随する実体験の描写が本当に面白い。そんな塩野七生さんに見初められるような男になりたいと思いつつ、本を読み進めているのだけど――

そんな彼女流の「装い」に関する話で、次の内容が今回の映画『ちいさな独裁者』の鑑賞と繋がってくる。
第8章 装うことの素晴らしさ より
制服は、または制服とみてもよい類の装いは、概してそれを着ている人を美しく見せる効果をもつ。…(中略)…ユニフォームの最たるものは、やはり軍服であろう。……そして、軍服の最高傑作を選ぶとすれば、やはりナチの将校の服ではないだろうか。あれは、軍服に必要なすべての条件を見事に満たすことによって、一つの美を創り出している。

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装うとは、着る人間の個性に合ったものであるべきである、という従来の考え方に、私はまったく賛成しない。装うとは、着る人間がどのような個性を生きたいかで、決まるものだと私は信じている。だからこそ、素晴らしいのだ。
これを読んで知りたくなった事柄が2つ。

1つは単純に「ナチの将校の服って、どういうの?」ということ。俺にはハーケンクロイツ(卍)のシンボルと、ヒトラーの顔がなんとなくしか思い浮かばない。

もう1つは、「装うとは、着る人間がどのような個性を生きたいかで、決まる」ということ。個性を望んで装うということが、どういうことかをもっと具体的に知りたくなった(なお、塩野七生さんの『男たちへ』では、マキアヴェッリの手紙の内容が例として用いられる)

そこで、なんとなく「ナチス 軍服」とかでググっていたら、今回の映画に行きついたと言うワケ
映画『ちいさな独裁者』オフィシャルサイト
1945年4月、ドイツ敗戦まで1カ月。偶然に軍服を拾った若き脱走兵は、同時にナチス将校の威光をも手に入れた…。尋常ならざるサスペンスに満ちた実話の映画化!
-丈の長い軍服
-借り物の権力
上述したような塩野七生さんの感性を知る上で、これほどぴったりな映画があるなんて(笑) しかも実話! 

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さて、感想です(ネタバレ有ですが、たいしたことは書いてません)




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まず、俺の知りたいことを知ることができて満足である。ナチ将校の軍服はたしかに美しい。たとえ丈が合わなくても、それはそれでサマになってしまっている。

しかしこの話の場合、サマになってしまったからこそ不幸だったのだろう。「装い」ひとつで本当に自分が生きたい個性を得てしまって、そのままイケない方へと突き進んでしまうヘロルト大尉脱走兵。敗戦1ヶ月前という極限状態や周囲の混乱も、彼をそうさせた要因ではあるんだろうけど… 

これは決して「素晴らしい」と言う類の話ではない。凄惨で忌むべき実話なのだが、塩野七生流の「装い」の力を理解する極端な例として、とても興味深い話だった。こういう力が事実あるということを知って、俺自身はそれをいい方向に利用せんとね。

ヘロルト1
ヘロルト2
「装い」が、虐殺へとつながる―― 
その後、ネットで実在したヘロルト大尉のことを調べてみてた。次の記述が恐ろしい。
ヴィリー・ヘロルト(Wikipediaより)
…虐殺の動機について問われると、「何故収容所の人々を撃ったのか、自分にもわからない」と答えたという

さて、映画の見どころについても感じたことを少しだけ述べる。

確実に、ヘロルトが「盗んだ軍服で大尉を装っている」ということに気づいている人間が複数人いる。少なくとも3人は。序盤から、彼がそれをいつ追求されるのか・吊し上げられるのか、という緊迫感がある(そういう趣旨の映画だと思うほど)。しかしそれがまた、彼の装った個性を助長させていって、、、まぁ最後は良くも悪くも、いかにも「実話」らしい結末を迎えるんだけど。

それと一番最初にヘロルト大尉のお供になった兵隊、

ヒトラー似
俺が想像してたヒトラーの顔そっくりなんだけどw

いや、間違いなく似てるやろww
狙ってそうしてるのなら、そこに込められたアイロニーなりメタファーが深い。俺的には彼が影の主役。ヘロルト大尉の「装い」に最も翻弄されて、呑まれていく人物。

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塩野七生さんは歴史小説家で特にヨーロッパ史に関する知識人だから、この映画「ちいさな独裁者」の実話はご存知のはずだろう。最後に再び、塩野七生さんの『男たちへ』の引用で締めくくる。
ナチ時代のドイツ人は、絵画でも建築でもつまらないものしか創造しなかったが、軍服だけは傑作を創り出した。それは、彼らが軍人というものを熟知し、どのように外側をととのえれば精神もそれなりに変わってくるかということに、着眼したからであろう。嘘だと思ったら、仮装パーティででも、一度ナチの軍服を試してごらん。

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